麹のお話

日本酒のラベルを見ると,下の方に,あるいは脇に「原材料名」が書いてあります。その中に,「米」といっしょに必ずあるのが「米麹」です。でも,酒造りになぜ米麹が必要なのかご存知でない方もおられるので,「麹」のお話をします。原材料の米はでんぷん質を多く含んでいますが,このままではアルコールは作れません。そこで、このでんぷんを麹の力を借りてブドウ糖に変えてもらい,このブドウ糖に酵母を働かせてアルコール発酵させるのです。

ワインは、葡萄の実がブドウ糖そのものですから麹は必要ありませんし、葡萄の皮には酵母がいっぱい付いているので踏み潰しておけばアルコール発酵します。

大麦を原料とするビールも,この大麦の芽(麦芽)の中の酵素の働きで糖化が行なわれるので,やはり麹はいりません。

さて,この麹は「糀」という字もあります。蒸した米を30℃くらいの部屋に入れて麹菌を植え付けておくと,麹菌が増殖して、米粒一つ一つが小さな白い花のようになるところから考えられた字で,これは漢字ではなく国字です。

最近はもっぱら「麹」の方が使われているのは、麹は米だけでなく麦や豆などでも造るので米と麦を同居させた字を使っているのでしょう。

この麹の存在がわかるまでの太古は、日本酒は処女が米飯を噛んで造ったと『古事記』にあります。米飯を噛むと,唾液の中のジアスターゼ(糖化酵素)の働きでブドウ糖が出来ます。これをカメなどに入れておくと空気中の酵母が入ってきてアルコールに変えるわけです。酒を造ることを「醸す」(かもす)というのはここから生まれた言葉と言われています。

それが,奈良時代になると,唾液の代りに麹カビを使って酒を造るようになりました。

なお,味噌や醤油を作るのにも,麹は必要です。こう見てみると,日本の食は麹によって支えられていると言っても過言ではありません。



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